Anki は、間隔反復(spaced repetition)を実装したソフトとして最もよく知られています。医学生や語学学習者に長年使われていて、仕組みの正しさに疑いはありません。それでも「入れてみたけど続かなかった」という人は少なくありません。
この記事では、Anki が続かない典型的な理由を整理し、カードを作らずに間隔反復を回す別のやり方を紹介します。この記事は復習管理アプリ Ebbing の公式サイトが書いているので、その立場は踏まえて読んでください。Anki を否定する意図はなく、合う人には Anki が最良の選択です。
Anki の何が優れているか
まず、Anki の強みを正確に押さえておきます。
- カード 1 枚ごとに復習間隔が最適化される。覚えた語は間隔が延びて出てこなくなり、苦手な語だけが頻繁に出る
- アルゴリズムの研究が厚い。古典的な SM-2 系に加え、近年は FSRS という新しいスケジューラも選べる
- 自由度が高い。画像・音声・穴埋め、共有デッキ、アドオンなど、ほぼ何でもできる
- PC 版・Android 版は無料でオープンソース(iOS 版は有料)
1 問 1 答に分解できる知識を、大量に、長期間覚え続けたい人にとって、Anki より細かく最適化してくれる道具はほとんどありません。
それでも続かない 3 つの理由
1. カードを作る時間が勉強時間を食う
Anki の効果はカードの質に依存します。良いカードは「1 枚 1 事実」「文脈つき」「自分の言葉」で作る必要があり、1 日 20 枚作るだけで 15〜30 分かかります。資格試験の問題集や参考書のように「章を読んで理解し、問題を解く」教材では、そもそも何をカードにすればいいかが決まらず、作成の時点で止まります。
2. 設定の自由度が高すぎる
新規カードの 1 日上限、復習上限、学習ステップ、間隔の係数。Anki は全部を調整できますが、裏を返せば、最初に何を設定すべきか分からないまま始めることになります。設定を間違えると「1 日の復習が 300 枚」になり、そこで放棄する人が多いです。
3. 復習が「借金」のように溜まる
数日休むと、復習待ちのカードが積み上がります。Anki は休んだ分を翌日以降に繰り越すので、復帰した日に 500 枚の復習が待っている、という状態になります。これは Anki の欠陥ではなく、カード単位で厳密に管理しているがゆえの結果ですが、心理的には続けるのが難しくなります。
続かなかったのは意志の問題ではない。カード単位の管理が、自分の教材に合っていなかっただけ。
別の回し方:教材・範囲の単位で復習日を置く
間隔反復の原理は「忘れかけた頃に、間隔を広げながら思い出す」です(間隔反復の科学)。この原理は、単位がカード 1 枚でなくても成り立ちます。
学んだ範囲をそのまま 1 単位にするやり方です。
- 今日「問題集の第 3 章」をやったら、それを 1 単位として登録する
- その範囲の復習日を、翌日・3 日後・1 週間後・2 週間後・1ヶ月後に置く
- 復習日には、その範囲の問題を解き直す(または章の要点を閉じたまま言えるか試す)
- 思い出せなかった箇所だけ、テキストに戻る
カードは作りません。登録するのは「今日やった範囲」の 1 行だけです。復習の中身は、手元の問題集やテキストがそのまま使えます。
この方式の向き・不向き
- 向いている: 資格試験の問題集、参考書、授業ノート、講義動画など、すでに教材がある学習。複数の教材を並走させる人
- 向いていない: 英単語を 1 語単位で細かく回したい人。この用途は Anki(単語帳型)の方が優れています
2 種類の比較は復習管理アプリの選び方で詳しく整理しています。
Anki と併用するという選択
両方を使い分ける人も多いです。
- 用語・単語・年号のような 1 問 1 答は Anki
- 問題集・テキストの章ごとの復習はスケジュール型
資格試験なら「用語暗記は Anki、過去問の周回はスケジュール型」という分担が自然です。どちらか一方に全部を寄せようとするより、教材の性質で分けた方が続きます。
Ebbing でやる場合
Ebbing はこの「教材・範囲単位」の方式を iOS アプリにしたものです。教材と今日やった範囲を登録すると、忘却曲線にもとづく復習日(1 日後・3 日後・7 日後・14 日後・30 日後)が自動で置かれ、今日の分だけがホームに並びます。復習間隔は目的に合わせて変えられます。
Anki から移る場合、既存のデッキを取り込む機能はありません。カード単位のデータと範囲単位のデータは性質が違うためです。代わりに、いま進めている問題集を 1 冊登録するところから始めるのをおすすめします。無料で始められます。
まとめ
- Anki はカード単位で間隔反復を最適化する道具として最良。1 問 1 答の知識を大量に覚える人に向く
- 続かない理由は主にカード作成の負担・設定の複雑さ・溜まった復習の重さ。意志の問題ではない
- 間隔反復の原理はカード単位でなくても成り立つ。教材・範囲の単位で復習日を置けばカードは要らない
- 問題集・参考書・ノートで学ぶ人はスケジュール型、単語を 1 語ずつ回す人は Anki。併用も自然
- Ebbing は範囲単位の方式。問題集 1 冊の登録から始められる